2020年5月28日 採用担当

2020年4月20日。溝の口エリアの飲食店情報まとめサイト「#溝の口テイクアウト」がリリースされました。発起人となったのは、ワクワク広報室・松田 志暢と街のキーマンたち。

新型コロナウイルスの影響下、「苦境に立たされている飲食店を応援したい」という思いが、スピーディなサイトの立ち上げにつながりました。

コロナ支援に動く大学の仲間たちが、サイト立ち上げの起爆剤に

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#溝の⼝テイクアウトのロゴ。サイト⽴ち上げ後にはステッカーも作成し、各飲⾷店に配布しました

川崎市屈指の繁華街・溝の口。駅前には大型商業施設のほか、多くの飲食店が軒を連ね、この街ならではの個性や賑わいを生み出しています。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、人出は2020年2月下旬頃から次第に減っていき、飲食店に足を運ぶ人も激減。そんな中、各店が苦肉の策として始めたのがテイクアウトです。松田はその様子をつぶさに見ながら、何もできない自分に歯がゆさを感じていました。

松田「私の所属するワクワク広報室は、『溝の口という街の魅力を広報する』ことをミッションとしていますが、活気ある飲食店はまさに溝の口の魅力そのもの。仕事・プライベートシーン問わず、たくさんのパワーをもらっていました。

ですから、『1食でも多くのテイクアウトを購入して支援したい』と考えていたのですが、家庭の事情でなかなか店舗に足を運ぶことができなくて」

そんな矢先、松田の元にある話が持ち掛けられます。相談主は、エヌアセットも企業として加盟する有志団体「溝の口駅南口笑点街」会長・稲木 一幸さんでした。

松田「飲食店を応援するステッカーを作りたい、というのが稲木さんの相談だったんですが、その話を聞いたときに『メッセージだけでなく、機能としてサポートできる施策を実施したい』という想いがこみ上げてきて。

そこから、稲木さん、アドバイザー役の越水 隆裕さんとブレストを重ね、最終的にテイクアウト専用まとめサイト#溝の口テイクアウトの立ち上げ構想へとたどり着いたんです」

松田にヒントを与えてくれたのが、高崎経済大学時代の同期や先輩、後輩でした。共に地域政策学を学んでいた仲間たちが、群馬県富岡市や前橋市で同様のまとめサイトをすでに開設していたのです。

松田「目指したのは“3分以内で登録が完了できる”サイト。作業もデザインも極力シンプルにすることが、スピーディかつ明確な情報発信につながるんじゃないかと。

実施決定後は、友人づてに紹介してもらった、前橋まちなかテイクアウトフードコミュニティ『MaeTekuマエテク』の制作スタッフの方に教えを乞いながら、#溝の口テイクアウトを完成させました」

3か月限定で屋台村に出店。街における飲食店の存在感を知る

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屋台村で出店した飲⾷店の営業最終⽇での1コマ。前⽅でケーキを抱えているのが松⽥です

#溝の口テイクアウトの制作や運営は、松田をはじめとする有志が手弁当で行う取り組みです。飲食店へ寄せるそれぞれの気持ちが、今回の行動へと突き動かしました。

松田自身は大学3年時に屋台村で出店した経験が、現在の思いへとつながっています。

松田「所属していた学生団体で実施された3か月限定のプロジェクトだったのですが、そこで飲食店の店舗運営の難しさや苦労、喜びを少しだけ垣間見ることができたんです。

スタート当初に、他店のオーナーさんから『学生に何が提供できるんだ』と言い放たれたときの緊張感を今でも鮮明に覚えています」

自分たち学生が、ここで商売をするためには、他店との信頼関係を築くことが不可欠――店長の松田とコアメンバーたちは、「出勤・退勤のタイミングで全店に挨拶する」、「当番制だったトイレ掃除を一手に引き受ける」、「他店のメニューをすべて置き、客の希望があればデリバリーする」という3か条を掲げ、スタッフ全員に徹底させていきます。

松田「本当に少しずつではありますが、他店との距離が日に日に縮まっていった気がしました。そこからですね、『特徴のある個人飲食店が街の個性を生み出している』ことを肌で感じるようになったのは。

おせっかい焼きの店主が人と人をつなげる。店舗スタッフ同士が愉しく、仲良くすることで、常連客同士の新たな交流が生まれる。この繰り返しが、地域コミュニティを育み、やがて個々人の『こんなに面白い街なんだ』という体感へと結びつく。そんな光景を間近で見ることができたんです」

松田が当時取り組んでいた研究テーマは「若者と地域」。若者が地域の大人たちと共にプロジェクトを企画し、実施したとき、若者のキャリア形成や地域にどんな影響を及ぼすのかを自らが実験台となって研究していました。しかし、屋台村での出会いや小さな奇跡の数々は、それまでのフィールドワークとは少し違った感情を、彼自身にもたらしたのです。

「街づくりは人づくり」恩師の言葉を胸にワクワク広報室を0から10、100へ

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株式会社エヌアセット ワクワク広報室 松⽥ 志暢 現在は地域のハブとなる複合型シェアオフィス「nokutica」の管理⼈も兼任している

屋台村での店舗運営を経験してから、飲食店、とりわけ個店へ特別な思い入れを持つようになった松田。不動産会社・エヌアセットに就職し、営業部に配属されてからも、その気持ちをずっと大切に温め続けてきました。飲食店の立場を考えるあまり、入社1年目は、業務上での心の迷いが度々あったと振り返ります。

松田「忘れられないのは、自分でテナント物件を家賃査定したときのこと。新築で立地もよかったので、相当の値段をつけざるを得なかったのですが、同時に『この査定をしたことによって、個人店が挑戦できる賃料ではなくなり、結果的に飲食店経営の未来をつぶしてしまう状況にならないだろうか』という街を盛り上げる不動産を目指している自身に葛藤が生じてきて。ひとり苦しみました」

一方で、さまざまな現場に立ち合うごとに「不動産業は、人生のターニングポイントに立ち合う重要な業務」を実感。次第に迷いは消えていき、最善の策を提案できる営業マンとしての頭角を現わしていきます。

入社3年目を迎えた2015年9月。「溝の口という街の魅力を広報する」「人をつなぎ、街の魅力を向上させる」ことを目的とした「ワクワク広報室」が新設され、専任担当者には松田が任命されました。しかし、大学で地域政策について学んだものの、街の魅力を掘り下げ、人をつなぎ、伝えていく手段が分からず、スタートからしばらくは手探りの状態が続きました。

松田「街の資産である食材や商品、店舗にスポットを当てた地元住民向けのイベントを企画・運営したり、地域活動に参加したりと自分なりにできることを考え、精力的に動きました。でも正直言って、いつもどこか後ろめたい気持ちがあって。

当時のエヌアセットはまだ50人以下の会社。そのバックオフィスに、広報未経験の自分が加わっていることがとてもやりきれなかったんです」

そのとき、心の支えとなったのが、大学時代の恩師・大宮登先生に言われた『街づくりは人づくり』という言葉でした。

松田「解釈は人によってさまざまだと思いますが、私は『同じ想いを持つ人をどれだけつくっていけるか』という意味に捉えていて。“街づくり”というとひとつの大きなエリアのように感じてしまいますが、実は街をつくりあげているのは人。すべては1対1のコミュニケーションから始まることを念頭に置いて、根気強く活動を続けました」

潮目が変わったのは、2017年。街のキーマンたちとの関わりを持てるようになり、仲間と呼べる存在がひとり、ふたりと増えていったのです。中でも、会社としても大切な取引先である“次世代大家さん”とのタッグは、社内外に大きなインパクトを与えました。

すべての原動力は故郷。常に立ち返りながら街と関わっていく

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#溝の⼝テイクアウトを⽴ち上げた 越⽔さん(左)、稲⽊さん(中央)と。これまで数多くのイベントを共に⼿掛けてきました

松田「通常、不動産会社の社員とオーナーさんがフラットな関係を築けることはほとんどありません。しかし、『健やかな地域コミュニティを育てたい』という想いにお互いが共鳴したことで、共同でイベントを企画したり、新規ビジネスを立ち上げるような間柄になれたんです」

#溝の口テイクアウトではアドバイザー役として参画した越水さんも、溝の口エリアで5棟66室を所有する賃貸オーナーです。越水さん、稲木さん、松田が管理者を務めるfacebookグループ「ふらっと溝の口」で発信を行ったことで、サイト情報は一気に拡散されました。

松田「このグループは7000人以上の地域住民が登録する巨大コミュニティ。オンライン以外でも、街のキーマンたちが別途チラシを制作して配布してくれたり、口コミで広げてくれたり。地域に「よっしゃ、協力しよう!」と言ってくれる仲間たちがいなければ、#溝の口テイクアウトがここまで盛り上がりを見せることはなかったと思います」

2020年5月現在、サイトへの店舗登録数は約70店舗、PV数は4週間で12,000を超えました。飲食店側からは「自分はひとりじゃないと思えた。支えてくれてありがとう」「他店がどう工夫しているのかが分かり、参考になる」といった喜びの声が寄せられ、ユーザー側からも「見やすくて使いやすい」と好評です。しかし、この取り組みを「一過性のお祭り騒ぎにはしたくない」と松田は言葉を強めます。

松田「新型コロナの影響は根が深く、景気が戻るにはまだまだ時間がかかるでしょう。だから、これだけで飲食店が救われるとは全く思っていません。今回の施策をひとつの通過点として、さらなる一手を地域のみなさんと共に考えていきたい」

大学時代よりずっと、街づくりに関わってきた松田。「故郷である北海道上磯郡エリアに貢献したい」という想いが、すべての原動力となっています。

松田「故郷では兄が家業を継ぎ、地元に根を張って奮闘しています。自分は遠くから俯瞰しながら、常にアンテナを張って、活性化につながる働きかけをしていきたい。どんなときも、故郷への思いに立ち返る。地元のために人生を丸ごと捧げる。それが自分なりの自己表現なんだと最近つくづく思います」

ワクワク広報室立ち上げから5年。「溝の口という街の魅力を広報する」「人をつなぎ、街の魅力を向上させる」という壮大なミッションに向かって、松田はこれからも邁進し続けます。